新たなブラックミュージックとは?−GAGLEからの解答

HIP HOPアーティスト「GAGLE」のニューアルバム「VANTA BLACK(ヴァンタ・ブラック)」の完成報告会は2017年12月14日の夜、「オーディオ&ホームシアター のだや 仙台店」で行われました。当日のトークの一部を紹介します。

完成報告会では、公開前の「VANTA BLACK」全12曲を3部に分けて聴きました。オーディエンスは、特別ゲスト、メディア関係者、音楽関係者、一般公募などジャンルを超えたバックグラウンドを持つ32名。映画の試写会のような雰囲気で、聴き終えた後には自然と拍手が起こりました。各部をはさむようにトークセッションが設けられ、今作ついて、これまでとこれからの活動について、HUNGER、DJ Mitsu the Beats、DJ Mu-Rが、会場からの質問も交えながら、語り合いました。

「制作時にスタジオで自分たちの音楽を『聴く』瞬間が、本当に幸せなんです」と言うHUNGERからの声がけで始まった、新しくもベーシックな音楽を『聴く』ための会。リスニング環境として最上級のオーディオを用意して迎えてくれた「のだや仙台店」を含めた地元のつながり。前作から4年間の音楽的な進化、新しい領域のブラックミュージック「VANTA BLACK」とは….

「VANTA BLACK」−ブラックの新たな領域へ

『ブラック』と言ったとき、ブラックミュージックの歴史などはもちろん頭の中にはありますし、皆さんの中にも『ブラック』から連想されるイメージがあると思います。でも、僕ら(GAGLE)は、そこから先の新たな『ブラック』の領域を求めていました。そこから名づけたのが「VANTA BLACK」。これまで惜しまれつつも亡くなったラッパーやDJ、プロデューサーはたくさんいるけど、彼らが2017年に生きていたら、どんなブラックミュージックをつくるだろう? というのを想像したりもしました。

実際の制作では、Mu-Rから「こんな曲がある」と世界中のさままざな音楽がメンバーにシェアされる中で、「このサウンドはヤバイ」という共振感覚から、Mitsu the Beatsが鬼のように曲を量産していった。それらの曲を聴いてくと、特に今作は、科学的な感覚のするサウンド群の音像が見えてきました。『ブラック』の新たな領域を感じさせるような曲自体の魅力も十分にあったので、曲そのものをしっかり聞かせるパートもつくりつつ、僕(HUNGER)が声を乗せていきました。

震災からの日々

震災直後に受けたインタビューで僕は、「東北での表現活動は、遅れをとるだろう」と語っていた記憶があります。というのも、それ以前に、やらなければならないことがたくさんあったから。実際に、犠牲にしなけれないことも多分にあったし、表現活動に没頭できる時間はとれなかったので、それがハンディキャップになるだろうと感じていたんです。それに震災直後は、音楽や表現活動をするという雰囲気では、そもそもなかったから。

でも、震災から7年が経とうとする中で実感としてあるのは、震災の経験から蓄えられた感覚が身体に残っているということなんです。2012年に発表した「うぶこえ」は震災のチャリティソングとして制作し、2014年にリリースした前作「VG+」には、震災のことを歌った曲もありますが、今回は直接的に震災のことは扱っていません。でも、サウンドに集中して新しいものを生みだすということに主眼を置いたとき、身体に蓄えられた震災の経験と、この場所から切り離されずにあるGAGLEの表現が、自然な形で合わさってきたな、と思います。言い換えると、この場所で活動するということは、震災の経験も当然のように内包しているということです。

関係性の中で作られ、惹かれていく音楽

インディーズというのは、制作予算が限られています。一方、メジャーの場合、大抵は予算があるので、良い環境で音づくりができ、クオリティーは総じて高い。でもこれは、当然と言えば当然で。では、インディーズでそれが不可能なのかというと、そうではない。ここで言いたいのは、僕らは仙台で活動していて、しかもインディーズで活動していて、それでもこういう音楽ができる。

そこに僕らは、自信を持っています。なぜなら、僕らの音楽は、対話と信頼関係をもとにできあがっているものだから。実際の制作過程でも、レコーディング、ミキシング、マスタリングそれぞれのエンジニアの方々が、たとえ予算が多くはなくても、GAGLEの音楽性を評価してくれて、一流の技術で応えてくれる。みんながそれぞれの持ち場で、力を発揮しながらつくられているので、音としてメジャーに引けをとらない、魂のこもったものになっていると思います。
今回初の試みとして、このようなリスニング環境で、完成報告会をひらくことができました。そんな関係性の中でつくられ、ひらかれていくGAGLEの音楽は、今後、東北で表現活動をやっていく人たちにとっても、ひとつのヒントになるんじゃないかな、と思っています。

 

メッセージ

来場したオーディエンス32名から寄せられた、GAGLEとアルバムへのメッセージを抜粋して紹介します。

いやあ、、聴き終わってみて、感情が揺さぶられまくりました。今夜は眠れない気がします。ケイオスとピース、両極端ないろんなものが奇跡的に同居している。期待しかない新譜でした。余談ですが、妻が妊娠中で、お腹の子供にぜひ聞かせたい!

[放送局ディレクター]

中学生のときに買ったCDを歌詞カードを見ながら聞いていたようなワクワクがありました。完成報告会、またやってください。

[音楽家]

丁寧につくられた音の1つ1つが、音どうしの距離感が、鮮明に伝わってくる環境で聞くことができ、とても刺激的でした。

[雑誌編集者]

音楽で黒さを感じた不思議。影と陽のように、黒さの中に『光』を感じた。

[震災遺構 仙台市職員]

4年間まちにまったかいがありました。はやくCDを手に入れて無限リピートしたいです。